COLUMN

いまの私も未来の地球も幸せに⑭ 「光害(ひかりがい)」を減らして美しい星空を楽しもう

持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、星空や生態系に悪影響を及ぼす「光害(ひかりがい: light pollution)」を取り上げます。

目次

  1. 「光害(ひかりがい)」が星空や生態系に悪影響を与えている
  2. 北米から世界へ、光害から自然の夜空を取り戻す運動が広がる
  3. 日本でも光害を減らす取り組みが普及しつつある
  4. おわりに

「光害(ひかりがい)」が星空や生態系に悪影響を与えている

天の川を見たことがありますか。太陽太陰暦にもとづく七夕にあたる8月は、日本で天の川がひときわ濃く美しく見える季節です。しかし、今や日本で天の川を見られる場所は少なくなりました。

Globe At Nightという夜空の明るさを地球規模で測定した調査データを分析した研究によると、2011年から2022年の期間で、世界の夜空は毎年約10%も明るくなっていることが示唆されています。

深夜まで煌々と明るい看板や店舗の電飾、必要以上に明るい街灯、ビルのイルミネーション、強力なサーチライトなど、過剰または不適切に設置された人工照明が周辺に及ぼす様々な悪影響を「光害(ひかりがい: light pollution)」と言います。

必要以上に明るい照明や目的の照明範囲外に光が漏れる非効率な照明は、エネルギーの無駄使いになります。また眩しすぎる屋外照明は、ドライバーにとって歩行者や道路標識が見えづらくなるなど、交通の安全性を脅かす要因になります。そして、夜間に強い人工照明を浴びると、睡眠が妨げられるなど健康を損なう可能性があるとも言われています。

こうした私たちの日常生活への悪影響だけでなく、光害によって夜空が明るくなり星が見えにくくなることが、天体観測を難しくしています。さらに、光害は植物や野生動物にも悪影響を及ぼしています。

例えば、日本の主食である稲は、夜間照明が当たる街路などの周辺では出穂遅延が生じて成長が阻害されることが知られています。また、ビルやタワーの照明によって夜に移動する渡り鳥が方向感覚を失い人工物に衝突して命を落としたり、砂浜で生まれ海へ向かうウミガメの赤ちゃんが人工照明に誘引されて海の方向を見失い死亡したり、不適切な向きの街灯が光を使ってコミュニケーションする蛍など昆虫の生息地を狭めたりするなど、野生動物の生息環境が脅かされています。

北米から世界へ、光害から自然の夜空を取り戻す運動が広がる

米国では、天文学者らを中心として30年以上前に光害から暗い自然の夜を守る運動が始まりました。現在では、光害から自然の夜空を取り戻し、星空や生態系を守る運動が世界中に広がっています。

例えば、光害から星空を守る運動の先駆けとして、1988年に米国で設立されたDarkSkyは、世界の天文学者・環境学者らを中心に光害問題に取り組む国際的なNPO団体です。DarkSkyは、光害のない、暗い自然の夜空を保護するための優れた取り組みをしている地域を「星空保護区」として認定し、星の見える夜空や生態系の保全を後押ししています。世界で200箇所以上が星空保護区に認定されており、日本でも、西表石垣国立公園、神津島、岡山県井原市美星町、福井県大野市「南六呂師」が星空保護区となっています。

また、2006年からは、Darkskyやアメリカ国立科学財団光・赤外線天文学研究センターなどが、星空や地球環境保護の意識向上を図るキャンペーン「Globe At Night」を開始しました。これは、一般市民が観察した星空観測データをウェブやスマホアプリから報告し合う仕組みで、世界各地から集まった観測データをもとに夜空の明るさ世界マップを作成しています。Globe At Nightは、市民参加型の夜空の明るさ世界同時観察キャンペーンとして世界中に広がっており、これまでに180カ国からの星空観察データを収集しています。

さらに、光害から野生生物を守る運動も広がっています。米国テキサス州は、北米大陸を移動する渡り鳥の主要ルートの一つに位置しており、春と秋に多くの渡り鳥がテキサス上空を通過します。渡り鳥の多くは夜行性で、飛行中に大都市の強い照明によって方向感覚を失ったり、光に惹き寄せられてビルに衝突したりして死亡していました。そこでテキサス州では、ヒューストン、ダラス、フォートワース、オースティンなどの主要都市が協力して、春(3月1日から6月15日)と秋(8月15日から11月30日)の渡りの期間に、夜23時から翌朝6時まで極力消灯するキャンペーン「Lights Out Texas」を実施しています。

日本でも光害を減らす取り組みが普及しつつある

世界中で広がりをみせる暗い自然の夜空を守る運動と呼応して、日本でも光害を減らす取り組みが普及しつつあります。

神津島
DarkSkyの星空保護区に認定された神津島は、東京から南へ180kmに位置する伊豆諸島の島の一つです。神津島では、街路灯や防犯灯を夜空に光が漏れない光害対策型照明に交換する大規模な街灯改修を行い、星空や野生生物を守っています。神津島は、絶滅危惧種の「カンムリウミスズメ」や渡り鳥の「オオミズナギドリ」など、希少な野鳥の生息地です。美しい星空を守る光害対策はこうした希少種の保護にもつながっており、暗くなった浜にはウミガメが産卵に来るようになりつつあります。また、島民を星空ガイドとして養成して「島民による星空鑑賞会」を開催しており、美しい星空を観光資源として生かしています。

岡山県井原市美星町
DarkSkyの星空保護区に認定された岡山県井原市美星町は、自動販売機や電飾看板の22時以降消灯推奨に取り組んでいます。また、街路灯や防犯灯などの屋外照明を、上方向へ光が漏れず、色温度が低い光の照明に付け替えることで、住民の安全な暮らしを保ちつつ、美しい星空を守っています。

ライトダウンひらつか
神奈川県平塚市は、市内の事業所や家庭に同時に消灯を促すライトダウンキャンペーンを実施しています。「明かりを消して、星空を見よう」をスローガンに、同時刻に星空観察を呼びかけ、節電と光害問題について市民が共に考える契機としています。

環境省の星空観察
環境省は、肉眼による星空観察とデジタルカメラを用いた空の明るさ調査を、夏と冬の2回、市民参加型で実施しています。Globe at Nightのツールを用いた星空観察への参加や空の明るさを測定する星空公団のデジカメ星空診断への参加によって、日本の光害の現状を把握する取り組みに参加できます。

おわりに

今夜、照明を消して夜空を見上げてみてください。あなたの街から天の川は見えますか。夜は本当に必要な照明だけを使うようにする。そして、Loss of the Nightなどの光害調査アプリを使って星空観測データを送信し、世界規模の光害調査に参加してみる。そんな小さなアクションが、世界を変える一歩になるかもしれません。

RECOMMEND おすすめコラム