持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、地球環境や生産者の人権や社会に配慮した「エシカルジュエリー(ethical jewelry)」を取り上げます。
目次
- ダイヤモンドや金の採掘現場では環境汚染や人権侵害の解決が課題
- 地球環境や生産者の人権や社会に配慮した「エシカルジュエリー」が主流に
- 日本でもエシカルジュエリーの選択肢が広がる
- おわりに
ダイヤモンドや金の採掘現場では環境汚染や人権侵害の解決が課題
成人、結婚、子どもの誕生、昇進、結婚記念日など人生の節目や大切な記念日に、自分のために、または大切な人と一緒に、ジュエリーを選ぶ。大切な思い出とともに身に着けるジュエリーはかけがえのない宝物ですね。
ジュエリーとは煌びやかなもの、というイメージですが、その生産プロセスを遡ってみると、貴金属や宝石の採掘現場では、様々な社会・環境問題が生じてきた、という事実があります。
例えば、ダイヤモンド産出国の中には、シエラレオネ、アンゴラ、コンゴなど内戦状態にあった国が存在し、ダイヤモンドが反政府軍の武器購入資金となってきました。そのため内戦地域から産出されたダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド(conflict diamond)」と呼ばれます。2003年からは、国連決議によって「紛争ダイヤモンドではない」ことを証明する原産地証明制度である「キンバリー・プロセス証明制度」(注1)が始まったため、現在では紛争ダイヤモンドの流通は減少しています。
一方、ダイヤモンドの採掘では、鉱山をドリルで掘削しダイナマイトで岩石を砕く、海岸の堆積物を重機でさらう、労働者が川床の砂利を掘って原石を探す方法が取られており、産出地域の環境負荷低減が求められています。また、金の採掘では、小規模な金鉱山を中心に水銀を使用して金抽出をする方法が普及しており、水銀汚染による健康被害や生態系への悪影響が生じていると言われています。さらに鉱山での児童労働といった人権問題も存在します。
こうした、貴金属や宝石の採掘プロセスにおける環境汚染、児童労働、労働環境の安全性や公正な賃金などの問題は、依然として解決すべき課題です。
地球環境や生産者の人権や社会に配慮した「エシカルジュエリー」が主流に
2000年代以降、貴金属や宝石の採掘における環境問題や人権・労働問題への関心が高まる中で、ジュエリー業界では、地球環境や生産者の人権や社会に配慮した「エシカルジュエリー(ethical jewelry)」が主流になりつつあります。
「エシカル(ethical)」とは英語で「倫理的」という意味であり、サステナビリティの文脈では「地球環境や生産者の人権や社会に配慮した」という意味合いで用いられます。したがって「エシカルジュエリー(ethical jewelry)」は、貴金属や宝石の採掘・研磨加工・ジュエリー製作・販売といったジュエリーが消費者に届くまでの工程で、地球環境や生産者の人権や社会に配慮したジュエリーを指します。
2005年には、金およびダイヤモンドを扱うジュエリー業界を対象とした社会・環境責任の範囲の規範・規格を開発する国際的非営利組織Responsible Jewelry Concil(RJC)が組織されました。RJCは、鉱山から小売りまでサプライチェーン全体において、責任ある取引を推進する第三者認証を行っています。世界最大のダイヤモンド採掘・販売会社であるデビアス、カルティエ、ティファニーなど世界中のジュエラーがRJC認証に参加しています。
さらに、近年、エシカルジュエリーの新たな選択肢として注目されているのが、ラボグロウンの宝石です。ラボグロウンの宝石とは、研究室で育てられる人工宝石です。化学組成や結晶構造は天然の宝石と同じであり、例えば、ラボグロウンダイヤモンドには、天然ダイヤモンドと同様にGIA(米国宝石学会)などが定めた品質評価国際基準に基づく鑑定書が発行されます。
サステナビリティがますます重視される今、純度が高く高品質な宝石を天然石よりも安価に提供できることに加えて、貴金属や宝石の採掘プロセスで発生する環境汚染、紛争や児童労働などの人権侵害を回避できるラボグロウンの宝石は、ジュエリー業界で注目され、消費者の人気も高まっています。
日本でもエシカルジュエリーの選択肢が広がる
日本でも、エシカルジュエリーの選択肢は広がっています。以下では、ダイヤモンドを取り扱うジュエラーを中心に、エシカルジュエリーブランドを紹介します。
HASUNA
HASUNAは、日本におけるエシカルジュエリーの草分けであり、日本で初めてRJC認証を取得したジュエリーブランドです。産地や採掘の工程が分かるダイヤモンド、金鉱山で働く人の労働環境改善や有害化学物質の使用削減など生産者の人権を守るフェアマインド認証ゴールド、リサイクルのゴールドやプラチナ、発展途上国の生産者の自立支援につながる素材などを用いたジュエリーを販売しています。
cofl by 4℃
cofl by 4℃は、RJC認証を取得した日本の大手ジュエラー4℃が展開するジュエリーブランドです。廃棄されたパソコンや携帯電話などの都市鉱山から貴金属素材を再生したリサイクルメタル、環境に優しく紛争に関係しないラボグロウンダイヤモンドを用いたジュエリーを販売しています。また、牛乳パックをリサイクルしたジュエリーボックスなどラッピングまでサステナブルであることにこだわり、売上の1%を森林保全活動を行う一般社団法人more treesに寄付しています。4℃は、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズが運営する全国の結婚式場でも、提携ジュエリーショップとして紹介されています。
EARTHRISE
EATHRISEは、日本発のエシカルジュエリーブランドです。紛争や児童労働に関係せず環境に配慮して採掘されたダイヤモンド、水銀使用削減に努める金鉱山で採掘されたフェアマインド認証ゴールドなどを用いたジュエリーを販売しています。2016年にはパキスタンに宝石研磨工房を設立し、女性の自立支援・教育支援を行なっています。
ANNA DIAMOND
ANNA DIAMONDは、日本発のエシカルジュエリーブランドです。ラボグロウンダイヤモンド、色や形を理由に廃棄される宇和島産あこや真珠、廃棄されたパソコンや携帯電話などの都市鉱山を再生したリファインメタルを用いたジュエリーを販売しています。また、一般社団法人more treesを通じて1商品につき1本の植林に相当する寄付を行なっています。
Dorsey
Dorseyは、ラボグロウンの宝石のみを扱う米国のジュエリーブランドです。環境負荷を低減して採掘労働者の人権問題を回避できる、ラボグロウンのダイヤモンド、サファイヤ、エメラルドなどを使用したジュエリーを販売しています。公式ウェブサイトから商品を購入できます。
おわりに
身に着ける人も生産者も幸せになれるエシカルジュエリーを選ぶ。ジュエリーを選ぶ時に、その宝石や貴金属がどこからやってきたのかにも思いを馳せてみると、それはあなたにとって、もっとかけがえのない宝物になるかもしれません。
(注1) https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_exandim/05_diamond/index.html
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