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いまの私も未来の地球も幸せに⑫ 空き家を活用した地域まるごとホテル「アルベルコ・ディフーゾ」を楽しむ

持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、過疎集落や街中に点在する空き家をホテルの客室として再生し、地域一帯を分散型ホテルとして楽しむ「アルベルコ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」を取り上げます。

目次

  1. 人口減少が進む日本では、空き家問題が深刻になっている
  2. 観光産業による過疎対策として、イタリアで始まった「アルベルコ・ディフーゾ」
  3. 日本でも地域内の空き家を活用した分散型ホテルが生まれている
  4. おわりに

人口減少が進む日本では、空き家問題が深刻になっている

あなたの住まいのお隣さんが空き家になる。そんな日がやってくるかもしれません。

現在、日本は世界の主要国において高齢者人口の割合がもっとも高い国です。そして少子化および高齢化によって、50年後には、日本の総人口は現在の7割に減少し、65歳以上人口が約4割を占めると推計されています。(注1)

こうした人口減少や人口の都市部への集中にともなって、いま日本各地で起きているのが、空き家が増加して地域の防災・防犯機能が低下したり景観が悪化したりする「空き家問題」です。実際に、2023年の日本の空き家数は900万戸と過去最多で、総住宅数に占める空き家の割合も13.8%と過去最高になっています。(注2)

空き家が増えると、地域コミュニティが衰退してさらなる人口流出を招くなど、地域の活力が低下します。近年では、地方の過疎地域だけでなく県庁所在地や東京などの大都市圏でも空き家が増えています。例えば、市区町村別の空き家数が全国一なのは、東京都世田谷区です。このように、日本全国で空き家問題の解決が急務になっているのです。

観光産業による過疎対策として、イタリアで始まった「アルベルコ・ディフーゾ」

65歳以上人口比率が日本に次いで高く、日本と同様に少子高齢化が進むイタリアでは、観光産業によって過疎化の解決を目指す「アルベルコ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」と呼ばれる取り組みが広がっています。

「アルベルコ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」とは、イタリア語で「分散型ホテル」を意味します。アルベルコ・ディフーゾは、少子高齢化による空き家問題を観光産業で解決することを目指すイタリア発祥の取り組みです。集落内に点在する空き家をホテルの客室として再生し、レセプション機能を持つ中核拠点を中心に宿泊施設や飲食店をネットワーク化して、地域一帯を分散型ホテルとすることを特徴とします。

例えば、アドリア海に面したイタリアのマルケ州ぺザーロ・エ・ウルビーノ県に16世紀からある歴史ある小さな町では、集落内に点在する数軒の空き家を客室に改修して、レセプション機能を担う建物や町のレストランとともに分散型のホテルにしています。(注3)観光客は、歴史ある石造りの民家に滞在して町の暮らしを体験することができます。また地域住民をホテル運営スタッフとして雇用しており、地域に雇用が生まれています。

このように、空き家を活用して集落をまるごとホテルにするアルベルコ・ディフーゾでは、観光客が地域内を回遊して宿泊したり食事を楽しんだりするため、観光客と地域住民との交流が生まれ、地域雇用が生まれるなどの地域活性化の効果を期待できます。

日本でも地域内の空き家を活用した分散型ホテルが生まれている

日本でも、過疎集落や街中に点在する空き家を客室として改修し、地域にもともとある資源を繋ぎ合わせて一つのホテルに見立て、地域住民とともにホテル運営をする取り組みが生まれています。

沿線まるごとホテル
沿線まるごとホテルは、無人駅の駅舎をホテルのフロントとして活用し、沿線集落の空き家を客室に改修し、地域住民とともにホテル運営を行うことで、地域全体を一つのホテルにする取り組みです。東京都内でも人口減少が進むJR青梅線東京アドベンチャーライン(青梅ー奥多摩駅間)沿線では、「鳩ノ巣駅」をフロントとして沿線一帯を分散型ホテルにしています。古民家を改修した中核施設のSatologueには、奥多摩の食材や食文化を楽しむレストラン棟、林業の歴史を持つ奥多摩の森や渓流を生かした薪サウナ棟、宿泊棟(注4)があり、地域住民と交流しながらその土地の自然や歴史・文化を楽しめます。

NIPPONIA KOSUGE
「なつかしくてあたらしい、日本の暮らしをつくる」ことを目指すNIPPONIAは、歴史的建造物を改修した宿泊施設やレストラン、その土地の文化を体験できるアクティビティなどを、地域一体で運営する取り組みです。多摩川源流に位置する山梨県・小菅村では、人口700人の山村集落が一つのホテルとなっており、ホテルマネジャー、送迎の運転手、食材の生産者、料理人、村の案内人などホテル運営の全てを村の人々が担っています。また「ひとによいこと、環境によいこと、社会によいこと、をデザインコンシャスに。」をパーパスとした株式会社THINKSTHINKSのプロデュースのもと「700人の村まるごと、ふたりの舞台に。」をコンセプトに、ごく少数の親しい方々だけを招いて結婚を誓い、村の人々からも祝福される、平日2泊3日の滞在型エシカルウェディングを行っています。

SEKAI HOTEL FUSE
東大阪・布施にあるSEKAI HOTEL FUSEは、商店街の空き店舗を改修してフロント機能を持つカフェや客室とし、宿泊客には商店街の飲食店や銭湯を巡ってもらうことで、商店街をまるごとホテルにする取り組みです。空き店舗を客室へ転換して観光客を呼び込むことで、商店街をシャッター街にせず活性化しています。

hanare
東京・谷中にあるhanareは、街全体を一つのホテルに見立てた分散型ホテルです。ホテルのレセプションは木造アパートを改修したカフェ&ギャラリーHAGISOにあり、客室は空き家だった木造アパートを改修した部屋、レストランは街の飲食店、大浴場は街の銭湯、お土産屋さんは街の雑貨屋さんといった具合に点在しています。観光客は谷中の街を巡りながら「まちに泊まる」ことができます。

おわりに

もともと地域にあるものを活かして、地域住民が関わりながら「その土地に暮らすように泊まる」観光サービスを提供する、地域まるごとホテル「アルベルコ・ディフーゾ」。地域の人々と一緒にその土地をまるごと楽しみながら、空き家問題を解決して地域を活性化する取り組みに、あなたも参加してみませんか。

(注1) https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp2023_PressRelease.pdf
(注2) https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf
(注3) https://www.maff.go.jp/primaff/koho/seminar/2022/attach/pdf/220726_04.pdf
(注4) 宿泊棟は2025年春開業予定。

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