持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、土壌を回復させて自然環境をよりよい状態に再生させる「リジェネラティブ農業(Regenerative Agriculture)」を取り上げます。
目次
- 地球温暖化の影響で2050年までにコーヒー豆の産地が半減する
- 土壌を健康にする「リジェネラティブ農業」が地球温暖化を抑制する
- リジェネラティブ農業を推進する新たな認証制度が生まれている
- 日本でもリジェネラティブ農業で育ったコーヒーを楽しめる
- おわりに
地球温暖化の影響で2050年までにコーヒー豆の産地が半減する
淹れたてのコーヒーの香りで目覚め、カフェでコーヒーを飲みながらくつろぐ。一杯のコーヒーと共に過ごす幸せなひととき。そんな至福のコーヒータイムが、将来なくなるかもしれません。
今、地球温暖化による気候変動の影響で2050年までにコーヒー豆の産地が半減し、美味しいコーヒーを気軽に飲めなくなる「コーヒー2050年問題」が浮上しています。注1)
コーヒーは、「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道付近の特定の緯度のエリアで生産されています。特に人気のあるアラビカ種のコーヒー豆は、標高1,000メートル程度の山岳地帯で昼夜の気温差の大きい亜熱帯地域が栽培に適しています。しかし、地球温暖化が引き起こす気温や湿度の上昇、降雨量の減少によってコーヒー栽培に適した土地は2050年までに半減すると試算されています。このまま産地が縮小すると需給バランスが崩れ、コーヒー豆の国際価格が上がって気軽にコーヒーを飲めなくなるというわけです。
この問題を解決するために、産地の自然環境をよりよい状態に再生させながら作物を生産する「リジェネラティブ農業(Regenerative Agriculture)」を取り入れたコーヒー栽培が注目されています。
土壌を健康にする「リジェネラティブ農業」が地球温暖化を抑制する
「リジェネラティブ農業」とは、土壌を健康にすることで自然環境の回復を目指す、環境再生型の農業です。土壌が健康になると、土壌からの二酸化炭素排出量が減り、土壌による温室効果ガスの固定・吸収力が高まります。したがって、リジェネラティブ農業は地球温暖化の抑制に有効な農法として注目されています。
土壌の再生を重視するリジェネラティブ農業の特徴には、化学合成肥料や農薬の不使用、農地を耕さないことや植物で土壌を覆うこと、異なる作物を交代で栽培したり組み合わせて栽培したりすること、農作物ごみや家畜ふん尿の堆肥化、樹木を植えて樹間で農作物や家畜を育てる森林農法、家畜の動きを管理して植生を保つ放牧などがあります。
リジェネラティブ農業は、いわばオーガニック農業を進化させて地球温暖化の抑制効果を高めた農法です。そしてリジェネラティブ農業の豊かな有機土壌で育った食物は、栄養価が高くなることが知られています。
例えば、コーヒー栽培では「森林農法」が実践されています。森林農法は、建材やオールスパイスなどの高木、バナナなどの多年生植物、低木のコーヒーを交ぜて植えます。高木がつくる日陰がコーヒー栽培に適した環境を実現し、バナナの落ち葉が堆肥となって土壌を回復させ、多様な植生が生物多様性を維持するなど、森を再生しながら作物を収穫することができます。さらに作物を多様化することで、コーヒー農家の収入が安定します。
リジェネラティブ農業を推進する新たな認証制度が生まれている
従来農法をリジェネラティブ農業に転換し、自然環境を再生しながら持続可能な食糧生産に取り組む農家を応援するため、新たな認証制度が生まれています。
2017年、米アウトドア企業のパタゴニア、米ボディケア企業のドクターブロナー、有機農業の研究で知られる米ロデール研究所の主導で、リジェネラティブ農業の第三者認証団体リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス(ROA)が設立されました。ROAは「土壌の健康」、「動物福祉」、「社会公平性」の3つの視点から農場・牧場を総合的に評価し、リジェネラティブ・オーガニック認証を付与しています。コーヒー豆では、グアマテラ、ホンジュラス、ニカラグア、コロンビア、ペルー、スリランカなどの生産者が、この認証を取得しています。
また、消費者と接点を持つコーヒー豆の焙煎所が、リジェネラティブ農業を応援する動きもみられます。
2020年、プロスノーボーダーであり環境保護に熱心なアレックス・ヨーダーは、コーヒー豆の栽培方法を見つめ直し、土壌の再生と気候変動問題の解決へ寄与することをミッションとするスペシャルティコーヒーロースタリーOverview Coffeeを、米オレゴン州ポートランドで立ち上げました。Overview Coffeeは、リジェネラティブ農業に取り組む農家からコーヒー豆を仕入れて販売しています。
このほかコーヒーを扱う食品飲料企業も、原材料調達の持続可能性を高めるためにリジェネラティブ農業の推進に取り組んでいます。
スイスに本社を置く世界最大の総合食品飲料企業ネスレは、2030年までに原材料の50%をリジェネラティブ農業から調達する目標を掲げ、農地を再生して温室効果ガス排出を抑制する農業への転換を推進しています。コーヒー事業では、生産者への研修・技術支援や高収量の苗木提供などによってリジェネラティブ農業への移行を支援しています。
日本でもリジェネラティブ農業で育ったコーヒーを楽しめる
こうした世界の潮流を受けて、日本でも、リジェネラティブ農業で育ったコーヒーを楽しむ場所が生まれています。
Overview Coffee 日本焙煎所
米ポートランド発のOverview Coffee は、株式会社Terrainを通じて、瀬戸内海の多島美が美しいしまなみ海道の広島・瀬戸田に日本焙煎所を構えています。リジェネラティブ農業に取り組む生産者から仕入れたコーヒー豆を自家焙煎してEC販売しており、Monthly Overviewというコーヒーのサブスクリプションサービスも選べます。また広島・瀬戸田のロースタリーカフェに加え、千葉・一宮にベーカリーカフェ、東京・日本橋にコーヒースタンドがあります。
森見ル焙煎所
埼玉・飯能の山間の集落にある森見ル焙煎所は、「コーヒーを通して世界と繋がり、森ともつながる」ことを目指して、森林農法や有機栽培のコーヒー豆を手煎り焙煎して販売しています。コーヒーに関するワークショップなども開催しています。
hugcoffee
静岡のコーヒーロースタリーhugcoffeeは、森林保護やリジェネラティブ農業を推進するレインフォレストアライアンス認証のコーヒー豆を販売しています。また、地域の企業や農園と協力して店舗から出るコーヒーかすを堆肥化し、その堆肥を使用して育てた野菜を商品利用や店舗販売に活用しています。そして結婚式会場のアーセンティア迎賓館静岡では、hugcoffeeのコーヒーをウェルカムドリンクとして提供していることも有り、美味しい祝福の一杯を楽しむことができます。
おわりに
美味しいコーヒーと共に過ごす至福のひととき。リジェネラティブなコーヒーを選ぶことで、自然環境を再生する農業を応援し、あなたの未来のコーヒータイムを守りませんか。
注1) WCR https://worldcoffeeresearch.org/resources/annual-report-2017
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