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いまの私も未来の地球も幸せに⑦ その土地の気候風土や歴史文化を知り、食文化を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」

持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食文化を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」を取り上げます。

目次

  1. 和食の無形文化遺産登録で、サステナブルな日本の食文化を再発見
  2. 土地に根ざした食文化を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」の広がり
  3. 日本はガストロノミーツーリズムの宝庫
  4. おわりに

和食の無形文化遺産登録で、サステナブルな日本の食文化を再発見


新しい年の始まり。おせちなどの行事食は、季節の変わり目や人生の節目に、感謝を込めて神様にお供えした食べ物を共にいただき、災いを払い、豊作や健康や幸せを願う日本の食文化です。また多様な気候や風土を持つ日本列島には、その土地ならではの四季折々の食材を生かし、地域独自の調理方法で作られる郷土料理が、各地に豊かに伝承されています。

2013年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、ちょうど10年。無形文化遺産として認められたことを契機に、食生活の洋風化が進んでいた日本でも和食が見直され、日本の食文化が再発見されました。現在では和食はヘルシーな食事として世界中で人気が高まっています。さらに近年は、和食がサステナブルな食事として注目されています。

例えば、「プラントベース(Plant Based)フード」という言葉を最近よく耳にしますが、これは植物由来の原材料を使った動物性食品を代替する食品で、肉の食感や味を再現した大豆ミートなどが知られています。プラントベースフードは、低脂質でヘルシーであり、畜産よりも環境負荷が少なく、世界人口の増加に伴う食糧不足問題を解決するサステナブルな食品として注目されています。そして、豆腐や納豆など大豆由来タンパク質を、発酵・乾物などさまざまな調理・保存方法を用いて食する和食は、プラントベースの知恵がつまったサステナブルな食文化と言えます。

また日本各地のバラエティ豊かな郷土料理は、その土地の旬の食材を生かす人々の知恵を伝えるもので、食料の生産や輸送にかかる環境負荷が低く、食を通して地域文化を継承するサステナブルな食事なのです。

土地に根ざした食文化を楽しむ「ガストロノミーツーリズム」の広がり


こうした地域ごとの食文化に着目し、地産地消の食材とその土地で生きる人々の知恵を伝える郷土料理を楽しみ、食を通じてその土地の自然や歴史文化を体験する「ガストロノミーツーリズム」が、いま世界で広がりつつあります。

「ガストロノミー」とは、もともとフランス文化の一部である、人々が食事を囲んで楽しいひとときを過ごすフランスの社会的慣習および美食文化です。

ガストロノミーの伝統をもつフランス・アルザス地方で始まったのが、ガストロノミーウォーキングです。フランス東北部、ドイツ・スイスと国境を接するアルザス地方は、起伏に富んだぶどう畑の中に美しい村が点在するワインの名産地で、世界中から観光客が訪れます。ワイナリー巡りが人気のアルザスでは、観光シーズンの週末に、ぶどう畑や森をのぞむ風光明媚なコースをチームを組んで歩きつつ、ウォーキングルートの途中に設置された野外フード・ポイントでワインや郷土料理を楽しむガストロノミーウォーキングが開催されています。

また、アメリカ西部オレゴン州のポートランドは、海が近く、農産物、ワインや地ビールなどの生産者が都市近郊に存在し、豊富な海と山の食材を地産地消できる環境にあります。そしてローカルビジネスを大切にし、食への意識が高い地域コミュニティが存在し、”Farm to Table(農場から食卓へ)“と呼ばれる環境に配慮した安全で新鮮な食材を地産地消する食文化が形成されています。ポートランドが体現するサステナブルな食のあり方と街のあちこちで行われるファーマーズマーケットや質の高いローカルレストランが、世界中から人々を惹きつけています。

街や自然の中を歩いてその土地の気候・風土や歴史文化を知り、土地に根ざした食文化を楽しむガストロノミーツーリズムは、伝統的な食文化を継承し、地域経済を活性化し、環境に負荷をかけない安全な旬の食材を地産地消する食のあり方を広めているのです。

日本はガストロノミーツーリズムの宝庫


多様な気候・風土によってバラエティ豊かな郷土料理やお茶・地酒が存在する日本は、土地に根ざした食文化を楽しむガストロノミーツーリズムの宝庫であり、各地で様々な取り組みが始まっています。

嬉野茶時

佐賀県嬉野は、全国有数のお茶所として数百年の歴史があり、釜炒り茶発祥の地です。同時に数百年の歴史を持つ肥前吉田焼の産地、嬉野温泉の宿場町という顔もあります。嬉野茶時は、嬉野のお茶と歴史文化を体感してもらうべく、嬉野茶の生産者と地元の窯元や温泉旅館がコラボレーションして、緑豊かな茶畑に点在する茶空間で、茶農家が自ら淹れるお茶を、肥前吉田焼の茶器で楽しむティーセレモニーを開催しています。また温泉旅館で楽しむ嬉野茶とペアリングしたディナーも提案しています。

アル・ケッチァーノおよび山形県鶴岡市

アル・ケッチァーノは、山形県鶴岡市から地域の食文化を楽しむガストロノミーを発信する奥田政行氏がオーナーシェフのイタリアンレストランです。鶴岡市は海、山、川、平野が街と近接し、在来野菜など土地に根ざした豊かな食材を地産地消できます。また1400年以上にわたって信仰を集める「出羽三山」では羽黒山伏の修験道文化とともに発展した精進料理が伝承され、家庭でも数多くの郷土料理が継承されています。さらに、だだちゃ豆など多くの在来作物の種を守り継いできた農業文化も存在します。こうした豊かな食文化と歴史が評価され、鶴岡市は2014年にユネスコ食文化創造都市に認定されています。

ONSEN・ガストロノミーツーリズム

ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構は、欧米のガストロノミーウォーキングに着想を得て、日本の温泉の魅力とガストロノミーを掛け合わせたウォーキングイベントを提案しています。日本の温泉地を拠点にして、地域の食、自然、文化・歴史などをウォーキングで巡りながら体感するイベントを各地で開催しています。

おわりに

地域ごとに受け継がれる食文化を楽しみ、その食文化を育んだ自然や歴史文化を体験する。新しい年に、あなたもガストロノミーの旅へ出かけませんか。

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