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いまの私も未来の地球も幸せに⑮ 多様な人々と交流しながら社会とのつながりを育む「サードプレイス」を持とう

持続可能な環境・社会・経済を目指すサステナビリティという考え方が世界中で広がっています。このコラムでは、毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介します。今回は、孤独・孤立が深刻化する現代において、多様な人々が交流しながらコミュニティを育む場となっている「サードプレイス(Third place)」を取り上げます。

目次

  1. 社会のつながりが希薄化し、孤独・孤立があらゆる世代の問題に
  2. 多様な人々が憩い、対話し、コミュニティを育む「サードプレイス」が広がる
  3. 日本にも多様な「サードプレイス」が生まれている
  4. おわりに

社会のつながりが希薄化し、孤独・孤立があらゆる世代の問題に

2021年、日本で「孤独・孤立対策担当大臣」が創設されたのをご存知ですか。

日本では、核家族化や地域社会のつながりの希薄化、未婚化や高齢化による単独世帯の増加、新型コロナを契機とするテレワークやオンライン授業など人と会う機会の減少、子どもの貧困や不登校の増加など、社会的つながりの不足による孤独・孤立があらゆる世代の問題となっています。

「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年)」(注1)によると、人との関係が希薄であると感じている人が40%以上に上り、男性は30〜40代、女性は20代で強い孤独感を抱く人の割合が高くなっています。このように、社会的な孤独・孤立は、誰にでも生じ得る身近な社会課題と言えます。

そして「孤独は、喫煙や過度な飲酒、肥満を上回る死亡リスクがある」と言われています。例えば、睡眠障害とそれによる日常機能の低下、ストレスレベルの上昇、血圧の上昇、免疫機能の低下を引き起こすことや、孤独とうつとの関連など、孤独が身体の健康を妨げることが明らかになっています。(注2)

多様な人々が憩い、対話し、コミュニティを育む「サードプレイス」が広がる

日本に先駆けて、イギリスは2018年に世界初の孤独問題担当大臣を任命して孤独・孤立問題に取り組んできました。イギリスでは、患者の健康悪化の根底に孤独・孤立の問題があるとみなされる場合、家庭医が地域活動やコミュニティ活動への紹介を行う「社会的処方(Social Prescribing)」という仕組みがあります。薬ではなく地域の人のつながりを処方する社会的処方では、「リンクワーカー」と呼ばれる人が、ケアが必要な人をボランティア・グループなどの地域資源へつなげる役割を果たしています。

また、イギリスでは、人々のつながりや居場所を増やし心身の健康を保つ拠点として、コミュニティカフェやアートスペースなどのコミュニティスペースが広く普及しています。例えば、フードロスと貧困に取り組む団体The Real Junk Food Projectは、廃棄予定の食材を活用した食事を提供するコミュニティカフェを運営しています。カフェを利用した人は「Pay As You Feel:自分が払いたいと思った分だけ支払う」システムで、フードロスを解消しながら貧富の差に関わらず地域の誰もが集える場所となっています。また、ロンドンにあるクィアサークル(Queercircle)は、クィア(性的マイノリティ)が安全に憩うことができて、アライ(性的マイノリティの支援者)が理解を深めることができる、アートギャラリーでありコミュニティスペースです。

このように地域の多様な人々が交流してコミュニティを育む拠点は「サードプレイス(Third place)」とも呼ばれ、孤独・孤立の健康への影響が検証されつつある中で注目が高まっています。

「サードプレイス(Third place)」とは、生活の基盤となる家庭(ファーストプレイス)でも、経済活動を行う職場や学業に取り組む学校(セカンドプレイス)でもない、多様な人々がリラックスして交流しながらコミュニティを育む第三の居場所のことです。サードプレイスは、もともと1989年に米国の社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した概念です。当時の米国は車依存型の都市社会で、家庭と職場の往復だけの生活に追わるストレス社会になっていたことから、フランスのカフェやイギリスのパブのように、多様な人々が集い、寛ぎ、交流して社会の絆を維持する場所の必要性が提唱されました。

世界各国で孤独・孤立が社会問題となっている現在、サードプレイスの重要性が見直されているのです。そして、個人がよりよく生きるために社会とのつながりを育むサードプレイスは、国際社会が協調して2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際的な開発目標SDGsに掲げられた「誰一人取り残さない」社会の実現にもつながります。

日本でも、核家族化や共働き世帯の増加などによって地域社会のつながりが希薄化し、テレワークの普及などで人と直接会う機会が減る中で、また価値観やライフスタイルが多様化する中で、地域に開かれた憩いと交流の場、多様な人々が違いを受け入れ合う対話の場として、サードプレイスの重要性は増しているのではないでしょうか。

日本にも多様な「サードプレイス」が生まれている

いま、多様な人々がリラックスして集い、交流しながらコミュニティを育む、多様な「サードプレイス」が、日本各地で生まれています。

TRUNK(LOUNGE)
東京・渋谷のTRUNK(HOTEL)は、「ソーシャライジング〜自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること〜」をコンセプトとするブティックホテルです。ホテルのラウンジTRUNK(LOUNGE)は、渋谷の街やヒトに開放されたコミュニティスペースとして、宿泊客や近隣の人、打合せや作業を行うノマドワーカーやクリエーター、イベントやワークショップを目的に集まる人など、多種多様な人々が集う場となっています。

喫茶ランドリー
2018年に墨田区の住宅街に誕生した喫茶ランドリーは、洗濯機・乾燥機やミシン・アイロンを備えた「まちの家事室」付きの喫茶店です。「どんなひとにも自由なくつろぎ」をコンセプトとして、街に暮らす様々な人が訪れる私設公民館のような存在になっています。

コミュニティナース
コミュニティナースは、コミュニティナーシング(地域看護)の考え方に基づいて「人とつながり、まちを元気にする」相互扶助のあり方を社会に広める活動です。コミュニティナーシングのトレーニングを受けた人が中心となって、暮らしの中の身近な場所で、地域住民の心身の健康や安心に寄与するケアを実践しています。島根県雲南市の活動拠点「みんなのお家」は、地域の人が集まるコミュニティスペースとなっています。

暮らしの保健室
暮らしの保健室は、健康や介護や暮らしの中の困りごとを、地域の社会資源に詳しい看護や医療の専門家に相談できる、敷居の低いワンストップの相談窓口です。また、気軽に立ち寄って居心地の良いサロンのようにくつろげる地域拠点です。訪問看護師の秋山正子氏の「気軽に訪問看護や在宅ケアに出会える仕組みを」という願いから誕生し、全国に広がっています。

とびらプロジェクト
とびらプロジェクトは、東京都美術館と東京藝術大学が2012年から取り組む、美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育むソーシャルデザインプロジェクトです。一般から集まったアート・コミュニケータ(とびラー)と学芸員や大学教員などが、美術館にある文化資源を活かして、人と作品、人と人、人と場所をつなぐ活動をしています。また、アートを介して多様な人が対話しコミュニティを育む活動は全国各地に広がっています。

おわりに

あなたも、多種多様な人々が交流し、お互いを受容し、地域コミュニティを育む「サードプレイス」に参加しませんか。

このコラムでは、全15回にわたって毎日の衣・食・住・遊を幸せにするサステナブルアクションを紹介してきました。“If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.”(早く行きたいなら一人で行け。遠くへ行きたいならみんなで行け。)という諺があるように、持続可能な社会を実現するには、私たちみんなで進むことが大切です。いまの私も未来の地球も幸せになる日々を、これからも皆さんと一緒に重ねていけますように。

(注1)https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5/pdf/tyosakekka_point.pdf
(注2)https://www.jlgc.org.uk/jp/wp-content/uploads/2021/12/JIGCSeminar_09122021.pdf

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